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平成26年7月17日に、最高裁判所が、DNA検査の結果は生物学的に父と子の関係にない場合に、法律上「父と子」といえるのかという問題に判断をくだしました。

最高裁判所第一小法廷(平成25(受)233 親子関係不存在確認請求事件)
最高裁判所第一小法廷(平成24(受)1402 親子関係不存在確認請求事件)
最高裁判所第一小法廷(平成26(オ)226 親子関係不存在確認請求事件)

事案の内容

そのうち一つは、次のような事案でした。

  1.  X(夫)とY(妻)は結婚しており、Xはいっとき単身赴任をしていたが、月に2,3回程度はYのもとに帰ってきていた。
  2.  Xの単身赴任中に、YはZと出会い交際するようになった。
  3.  その後、XとYとが結婚している最中(結婚した日から200が経過した後)にAが生まれた。
  4.  XはAの父親として保育園の行事に参加したりしていた。
  5.  しかし、その後、XにZとの交際を気付かれたYは、Aを連れてZと同居するようになり、AもZを「お父さん」と呼んで順調に成長している。
  6.  DNA検査をしたところ、Aは生物学上Zの子供であることが判明した。
  7.  そこで、YはAの法定代理人としてXに対し「XとAは父と子では無い」という裁判(親子関係不存在確認の訴え)を起こした。

予備知識(父子関係の推定)

民法722条は、子供が、婚姻した日から200日が経過した後に、または、離婚(婚姻の取消しも含む)した日から300日以内に生まれた場合、その子供は、夫の子と推定されると定めています。
この場合、生まれた子供と父親と推定される夫との間に「父子関係が無い」というためには、父親のみが、子供が生まれたことを知った日から1年以内に「嫡出否認の訴え」という裁判を起こさなければなりません(774条~778条)。

このような父子の推定や、嫡出否認の訴えを父親のみ1年という短期間だけ認めた理由は、結婚している最中に妻が妊娠した子の父親は夫である可能性が一般的に高いだけでなく、法律上の父子関係を早期に確定し、子の身分関係を安定させることが子の福祉のために重要だと考えられています。

もっとも、民法772条が定めている期間内であっても、夫が刑務所に入っていたり、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住していたりして、妻とセックスする機会がないことが明かな事情がある場合には、民法772条の父子の推定は働かないとして、父だけでなく子供も「父子関係が無い」ことの確認を求める裁判(親子関係不存在確認の訴え)をすることができるとされています(最判一昭和44年5月29日・民集23巻6号1064頁、最判二平成10年8月31日・裁判集民事189号497頁、最判三平成12年3月14日・裁判集民事197号375頁)。

そこで、今回の裁判では、DNA検査によって科学的に「父子関係が無い」ことが証明できているのだから、この場合も民法772条の推定が働かなくなって、結果として、子供の方から親子関係不存在確認の訴えができるのではないかという点が争点となりました。

最高裁判決の内容

まず、

民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには、夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし、かつ、同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは、身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる

という点を確認した上で、

夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、子が、現時点において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって、同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできない

と結論づけました。そして、

このように解すると、法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが、同(772)条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認している
とも指摘しています。

どうやら最高裁は、法律上の「父と子」について、従来からの考えどおり今回も、民法772条による父子推定と1年以内に嫡出否認の訴えがなされなかったということで作りだされた「父と子」という外観(周囲から評価や見た目)を尊重して父子関係を早期に確定させてしまい、たとえ後から科学的に「父と子では無い」という証拠が出てきたとしても一度確定した「父と子」という関係は覆せないとした方が、多くの場合に子供の身分関係が安定し子供の福祉のためになるという価値判断をしたようです。