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今日(平成27年3月4日)、最高裁は、不法行為(交通事故など)で死亡した相続人が労災による遺族補償年金を受け取っていた場合、どのような損害に充当していくのか(損害の塡補があったのか)という損益相殺的な処理の方法を明らかにしました。

矛盾した二つの最高裁判決

最高裁は、平成16年12月20日判決で、交通事故で死亡した被害者の遺族が受領した自賠責保険金について、民法の規定に従って、まず既に発生している遅延損害金に充当し、残額があれば損害元本に充当するという取り扱いを認めました。
そして、この判決の中で、最高裁が「自賠責保険金」と説明していたことから、この「等」について文理上、労災保険の遺族補償年金や遺族厚生年金と解されるため、これら公的保険給付についても遅延損害金から充当していくようにも見えます。

一方で、最高裁は、平成22年9月13日判決で、交通事故で後遺障害が残った被害者が労災の障害基礎年金や障害厚生年金を受給していた場合、これら公的年金給付については、その給付と同質性があり、かつ、相互補完性がある損害の元本に充当され、充当される損害については不法行為のときに塡補があったものと法的に評価すべきである判断しています。

このように公的年金給付を受け取っていた場合の充当方法について、二つの最高裁判決は矛盾しているよう見えました。
また、矛盾していないとすると、平成22年判決は後遺障害が残存した事案の場合の処理方法で、死亡事案の場合には平成16年判決の方法で処理をすることになるのかといった議論もありました。
そして、最高裁は、今日(平成27年3月4日)の判決で以下のように説示し、平成16年判決の一部を変更する形で、二つの判決の矛盾を解消しています。

遺族補償年金は元本に充当される

最高裁は、遺族補償年金について被害者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を塡補することを目的とすることから、被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり、かつ、相互補完性があると指摘しました。

他方で、遅延損害金については、債務者(加害者)の履行遅滞(支払の遅れ)を理由とする損害賠償債権であって遺族補償年金の目的とは明らかに異なることから、同質性も相互補完性もないとしています。

したがって、不法行為(交通事故など)によって被害者が死亡し、その遺族(相続人)が遺族補償年金を受け取っている場合、その年金は、同性質であり、かつ、相互補完性がある逸失利益等の消極損害の元本に充当されるという形で損益相殺的な調整を行うべきと判断しました。

受け取った遺族年金は不法行為のときに塡補されたものと扱う

上記のとおり、遺族補償年金が逸失利益等の消極損害の元本に充当されるとして、いつの時点で元本に充当すべきか(損害が塡補されたと評価すべきか)も問題となります。現実に年金を受け取ったときに塡補されたと評価すると、交通事故など不法行為があった日から年金を受け取った日まで間で遅延損害金が発生することになります。

この問題について、最高裁は、遺族補償年金によって補塡の対象となる損害(充当される逸失利益等の消極損害の元本)は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価すべきであると判断しました。つまり、受け取った遺族年金に相当する損害部分については遅延損害金は発生しないことになります。

その理由として、最高裁は、まず、逸失利益などの将来的な損害についても不法行為の時に発生したものとして算定すること(最高裁昭和37年9月4日判決)について、この算定は、事柄の性質上、不確実、不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下で行わざるを得ないもので、中間利息の控除等も含め、法的安定性を維持しつつ公平かつ迅速な損害賠償額の算定の仕組みを確保するという要請を考慮した上で行うのが相当であると指摘しています。
その上で、遺族年金は、遺族の被扶養利益の喪失を塡補するという目的に従って、法令に基づき、定められた額が定められた時に支給されるものであるから、その制度の趣旨に従って支給がされている限り、その支給分については遺族に被扶養利益の喪失が生じなかったとみるのが相当であると指摘し、遺族補償年金の支給が著しく遅れるなどといった特段の事情がない限り、その塡補(充当)の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価するのが公平の見地から相当であるとしています。

まとめ

以上のように、最高裁は、不法行為の被害者が死亡した事案で遺族が公的年金給付の一つである労災の遺族補償年金を受領していた場合の処理について、平成22年判決と同じ処理をすることを示し、その限りで、平成16年判決を変更することを明らかにしました。

その結果、被害者側が損害の塡補として受け取った金銭が自賠責保険金であった場合には、平成16年判決のとおり、

まず既に発生している遅延損害金に充当し、残額があれば損害元本に充当する

という処理をすることになります。

他方で、被害者側が受け取った金銭が公的年金給付である場合には、平成22年判決や今日の判決のとおり、

給付と同質性があり、かつ、相互補完性がある損害の元本に充当され、充当される損害については不法行為のときに塡補されたものと法的に評価する(受け取った遺族年金に相当する損害部分について遅延損害金は発生しない。)

という処理をすることになります。