誰もが知っていることですが、自動車の運転者や乗員はシートベルトの装着が義務づけられています(道路交通法71条の3第1項)。
それでは、交通事故が発生したときに被害者がシートベルトを装着していなかった場合、落ち度があったとして過失相殺(受け取れる賠償額の減額)がされたりするのでしょうか。

まず、シートベルトをしていたか否かということと、交通事故が発生したこと(例えば、クルマ同士が衝突したこと)との間には関係がありません。そうすると、クルマなどの物が壊れただけ(物損事故)の場合には、シートベルトを装着していなかったとしても、過失相殺といったことは問題になりません。

シートベルトの装着していなかったことが過失相殺として問題となるのは、交通事故が発生した後に生じる被害との関係です。つまり、シートベルトを装着していなかったために被害者が怪我をしたとか、あるいは怪我が重くなったとかいった人身事故の場合に、過失相殺(被害者側の過失割合)が問題となってきます。
この点に関して、交通事故の被害者がシートベルトをしていなかった場合でも怪我が悪化し損害が拡大したとは認められないとして被害者の過失を否定した珍しい裁判例(大阪地裁H13.10.17・交通民集34巻5号1403頁)もありますが、一般的にはシートベルトを装着していなかった被害者には過失相殺がされています。
そして、最近の裁判例などをみても、シートベルトを装着していなかった被害者の過失割合については、概ね10%~20%程度として扱われているようです。

  • 名古屋高裁H26.03.27判決(ウェストロー・ジャパン):15%
  • 東京地裁H25.12.16判決(自保ジャ1916号153頁):20%
  • 名古屋地裁H25.09.12判決(ウェストロー・ジャパン):10%
  • 京都地裁H24.11.28(自保ジャ1891号53頁):20%

実際の裁判でも、交通事故の際にシートベルトを装着していなかったがために車外に放出され、頭部などを強く打ち付けてしまい、死亡したり大きな後遺障害を残すような大怪我を負ってしまった被害者の事案を目の当たりにしてきました。くれぐれも、クルマを運転する際には運転者のみならず乗員全員が忘れずにシートベルトを装着しましょう。